Sorry...Japanese Only.

我思う、故に我あり

 例えば君が朝目覚めたとき、耳に水の滴る音を聞いたらその日に着ていくべき服装がす ぐさま浮かぶであろう。
 「今日は寒いかな」
 「髪の毛広がっちゃうな」
 「傘持ってかなきゃ」
と試行錯誤し、そのとおりの服飾を身に纏う。

 私にはそれが出来なかった。起きた感覚で今寒くない程度の上着を着、重たい荷物をし ょって駅へ向かった。その道のりは快適であった。もう10月だし、このくらいで丁度良いと納得した。しかしそれが、そもそもの間違いであったのだ。駅を降りると、太陽は怒り狂い、風はその熱をふくみ、人々は半袖でお互いに微笑みをかわしあう。

「しまった・・・」

私は思わず口にだしてしまいそうになった。朝家を出たのは確か8時すぎだった。今は11時30分を回っている・・・。時は昼時、つまり日中だ。太陽は一番高い位置に来ているはずである。 一日には「最高気温」というものがある。どうしてこんな簡単な ことに気がつかなかったのだろう!この、脱ぐに脱げない上着をどう処理するべきか。天気予報ぐらい良く見てくるべきであった。確かに今朝方見るに見ては来たのだが、「きょうのわんこ」に気を取られあまり把握できなかったのも事実だ。しかし自分ばかりを責めてはいけない、気を取り直して教室へ向かうことにした。最初の授業は文3だ。汗をぐっしょりかいてしまうおそれも十分にある。

 今汗をかいてしまうと今日一日が台無しになってしまうと判断したので私はゆっくり歩 くことにした。すると向かい側から一人の女性が私とすれ違おうとしていた。フェンディのがばんを提げた彼女は長いロングコートを羽織っていた。

 そしてそのコートの襟元には恭しくもコートと同色のモールがついていた。彼女の顔は 全体的にほてっており、額には大量の油が流出していた。あれでは暑いだろう。私と同じ、いや私以上だ。たぶんあのコートは彼女にとってお気に入りで、寒かった朝どうしてもあのコートしか目に入らなかったのだろう。
「わかるわかる・・・」いつのまにか私の口元に微笑みが零れ出ていた。世の中にはいろいろな人がいろいろな生活を営んでいる。天気予報を見てばっちりと極めてくる者、寝坊して間の抜けた姿で現れる者、私や彼女みたいに気温に適応しきれない服装をしてくる者・・・。みんないろいろな時間にいろいろな朝を迎えて生きているのだ。

 気持ちが軽くなった私は教室へ急いだ。席に着いてしばらくすると郷ひろみがあらわれた。彼女も今は暑そうなセーターを着ていた。
「なにー、今日暑いのねー。」
彼女も額に汗していた。
 さあ、これから授業が始まる。一人一人、それぞれの授業が。


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