雪・・・。白く美しい氷の結晶。空から舞い落ちるその神秘的なの宝石は街を白銀の世界へと変貌させる。人々の吐息もまた、白く儚く冬の空気を飾る。
ばっかじゃねえの!?何が雪だ!何がホワイトクリスマスだ!私は雪が大嫌いだ!くもりガラスを開けて目に飛び込んできた「白銀の世界」は私の有りとあらゆる気象現象の中で最も憎むべき世界だ。見ればガキが早朝からランドセルをしょったまま間抜けなだるまをこしらえている。これから苦痛の通学通路でいったいいくつその間抜けなだるまを見なければいけないことか! さて、ここで問題に差し掛かる。雪→地面びちょびちょ→跳ねる。先日やっとの思いでゲットした白のロングコートが着ていけない!布地のストレッチブーツがはいていけない!ヒールが危険だ!・・・となると何を着りゃいいのか?私はおととし買ったハーフコートにローヒールの革靴で出かける事にした。学校にいくときの楽しみといえばおニューの服や靴を買ったときだ。しかしそれを雪は許さない。着たいのに着れない!買ったのに着れない!こんなに辛い女心を男に理解できるだろうか。この女心は、鍋にペエディグリーチャムをどっさり入れられ「待て」を強制されている空腹の犬にしか判るまい。そんな事を考えながら私は雪に足をすくわれた。憎々しい雪はそこに私がこけた印を残す。 駅に着いたが駅に入れない。東西線はのろのろ運転で朝のラッシュに追い討ちをかける。普段より三十分ほど送れた電車の中はぎゅうぎゅう詰めもいいところであった。しかも暑い!地下鉄はなんでこう暑いのか。冬場はみんな厚着をしてて、それが電車に押し込められれば暑いのは井出らっきょだって知ってる事なのになぜ営団地下鉄の職員達はそこに暖房を入れたりするのか。乗客の防寒着がサウナスーツとして十分な役割を果たした頃私は小田急線に乗り換えた。今度は寒い!車内でも吐く息が白いとは何事か!しかも込んでいて座れないし、七人がけの座席にキムタクを意識した不細工な連中や、アムロが休業に入った今何をお手本にしたらいいのか判らない女子高生が五人で占領している。生理初日の私には、もし金属バットがあるのならば一人一人の頭を殴りまくる勇気があった。 大学についたがさあ、そこからが大変だ。もうすぐ昼時の雪道はもはや白銀の世界ではなく泥道の世界だ。軽率な東京のドライバーはその泥を我々女子大生にねらいをつける。「いや~ん」という声があちこちで聞こえる。バカ車にカルバンクラインのコートに泥を撥ね付けられた者、布製のストレッチブーツに泥雪が染み込んできた者・・・。憂鬱な、醜悪なその道を私は慎重に通りキャンパスを目指した。そのゴールには休講通知が張り出されているとも知らずに・・・。 |