一人暮らしをしているといろんなことがある。「いろんなこと」はたいてい夜、しかも一人でいる時おこるものだ。
例えば、
- とろろ芋を食べ大当たりしておなかにバクツーくらって、フランス語のテストが翌日控えてるのに痛さをまぎらわせるために原稿用紙5枚に今の気持ちを書きなぐったり、
- 隣の部屋のひとが亡くなっていたり、
- いたずら電話で「何色のパンツはいてんの?」と非常にオーソドックスな質問をされたり・・・
どれも決して忘れられないことだけれど、私が一番パニクったことは「昆虫系的事件」のいくつかである。
わたしは速く動く虫が嫌いで、できればムシしたいのだが、(せきばらいを一つ)、部屋に遊ばせておくこともできないので申し訳ないが退治することにしている。
速く動く虫は、私にゆっくり考える時間を与えてくれないし、ずるがしこそうだし、すばやいがゆえに
「寝ているうちに鼻の穴に入って・・・」とか
「パジャマの中に入って・・・」と想像してしまうので嫌いである。そして困ったことに私のアパート「第二茜荘」は古い建物で虫がよく出るのだ。
大学1年のある5月の夜、テレビを見ながら眠ってしまった。ふと目を覚まして時計を見ると午前1時を回っていた。シャワーを浴びるため眼鏡をはずして風呂場にいこうとしたら、台所の流しのあたりで何かが動いたのが目に入った。
急いで眼鏡をかけてよく見ると、大きなゲジゲジが水道の蛇口の周りを“くるんくるん”とまわっていた。真っ黒い胴体に何本も何本も細い足がついていて、よくももつれずに動かす足を選択するものだと感心してしまうほどしなやかにまわっていた。
今思えばあれはちびまる子ちゃんでいう「山田」っぽいヤツであった。「あはは あはは」といいながらまわっていた。
見逃してはいけないと思い、(長いのでプロセスは省く)キンチョールで殺った。あの液体がかかった後少し苦しそうに逃げ回って、いきなり立ち止まると何十本もの足をシュンとすべて閉じてゲジはその生涯を終えた。息を引き取る前に私に向かって
「なにすんねん・・・」
とつぶやいた気がした。その頃ニュースで「地下鉄サリン事件」が話題になっていたので、私の胸は少し痛んだ。キンチョールはゲジにとって毒薬であり、ゲジは何も悪いことをしていないから・・・。
ここまで冷静に対処したかのように見えるが、実は疲労困憊 ,その死体を片づけるまでの気力はなく風呂につかってよく考えることにした。19歳になるんだし大人になって虫を怖がっているわけにもいかないという結論に達して、風呂からあがると私は大人っぽい立ち振る舞いでさりげなさを装いつつ、割り箸でゲジをつまみ、ティッシュ5枚の上に置き、包んで捨てた。
翌日、姉に一通、友達に一通この事を手紙に書いて送った。そして母に電話し事細かに説明をした。私の勇気を認めて、ほめてもらいたかったからである。「一人暮らしをするようになって、ゲジゲジまで殺せるようになったのね」と。
しかし彼女はほめるどころか、ゲジ一匹くらいでガタガタいっている私を弱虫扱いしたのち、自分は小学生の時背中にムカデが入って刺されて、ショックで倒れた、すごいだろう、と自慢までしてきた。しかしわたしもわたしで母親ながらすごいな、と思った。
母は強しというが、きっと幼い時にいろんな虫に出会ってさまざまな経験を積んで大人になったからこそであろう。負けちゃいられない。
母親を超えるためにはこれからも虫体験は必須である。
次回~ゴキブリ編~をお楽しみに。
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